仕事や教育にご褒美を使ってはいけない理由、報酬が人のやる気を奪う仕組み
やる気を出させる為に
あなたは人にやる気をださせようと考えた時にどういった手段をとりますか?あまり注目を集めそうにない事に人を集めようとした時にどうしますか?
恐らく多くの方が「報酬」という手段を取るのではないでしょうか?
「○○をすれば○○が貰える」「見に来てくれるだけで○○プレゼント」「目標を達成すれば報酬が貰える」などなど、日常的にも使われている当たり前のことです。
子供に言うことを聞かす為によく使っている人もいると思います。「次のテストでいい点を取れればおもちゃを買ってあげよう」「1位を取れれば遊園地に連れて行ってあげる」みたいなことを一度は親に言われたことがあるのではないでしょうか。
しかし、実はこの「報酬」「ごほうび」を使ってはいけないタイミングがあることを知っていますか?
もちろんこの方法が間違っているわけではありません。多くの場合で人を動かすための有効な手段と言えるでしょう。
確かに一時的には、即効性もあり、高い効果を期待できる方法であることは間違いないのですが、結果を考えれば使わない方がいいと思える場面は私達が思っているより多いのです。
正直言って、知らずに損している人の方が多いのが現状です。私も確実にマイナスの影響を多く受けてきていると思います。
何より、皆が当たり前に使っているから疑問にも持ちませんが、この「報酬」「ご褒美」を使った手段に、やる気や成果向上の効き目があることは科学的に証明されているでしょうか。
「人を動かす」という意味での実証は確かに常にされていると言えますが、「人にやる気を出させる為」「よりよい成果を上げる為」を目的とした場合は逆効果だと私は思います。
実は、実際に「人にやる気を出させる為」「よりよい成果を上げる為」を「報酬」を使った実験は多く行われています。そして、実験は「逆効果」という結果になっています。
今回はそんな実験の結果を踏まえて、何故、「報酬」や「ご褒美」と言った方法が適切でない場合があるのか、ということを解説していきます。
子供の教育に…仕事で部下のやる気を出させる為に…などの理由から報酬を使った手段を使ったり使われたりしている方は是非一度この記事を読んで、今の自分の現状を見直してみてください。
やる気を奪う「ご褒美」
「ご褒美」と聞くとやる気が湧いてくる。上記では良くないことのように言っていますが当たり前のことですよね(笑)
ご褒美があるなら沢山勉強するし沢山練習する、そう感じるし自分もそうだったはず、そう思っている人は沢山いるはずです。
しかし、人間というのは私達が思っているよりも複雑で面倒くさがりなのです。
1973年にスタンフォード大学の心理学者マーク・レーパーが行った有名な研究があります。内容としては子供たちにお絵描きを好きになってもらう、という主旨の基に行われました。
数週間後に絵を描くイベントを開催することにし、子供たちを二つのグループに分けました。
片方のグループには「よく描けた絵に素敵な金メダルをあげる」ということを前もって伝えます。
もう片方にはメダルが貰える旨は一切伝えずに、イベントがあることだけを伝えて当日まで過ごしてもらいます。
この実験を見るポイントとしては、イベントまでどのグループの子供たちが方が絵を描くことに「熱心に取り組んだか」というところです。
普通に考えて「金メダルが貰えることを知っている子供たち」の方が絵の練習に熱心に取り組んだと思いますよね?しかし、意外なことに結果はそうならなかったのです。
意外なことに絵に熱心になった子供は「報酬」の存在を知らない子供たちだったのです。ちゃんと理由があり、レッパーの意見によるとメダルのことを話された子供たちの心境に変化が出てしまったからだそうです。
メダルの話しをされた子供たちは、「ご褒美があることは嫌なことをさせられる時」ということを考えてしまい、「金メダルが貰える絵を描くという行為は嫌なことだ」という考えになったそうです。
意識してみれば、これは私達も日常でよく思うことですよね。「何かいいものが貰える」=「それなりの対価を払う」ということは必ず考えます。
ですがこの場合は「絵を描く」という娯楽にも近い行為に「報酬」が発生したことによって、「絵を描く」という行為が対価になってしまったのです。
特に報酬を意識しなかった子供たちは絵を描くことに何も不満を抱かなかったのでしょう。自分が好きなことをしているだけなのです。
因みにこの実験の凄いところは、何度やっても結果は変わらなかった、という点です。
この実験の結果は明白といえるでしょう。「子供にやる気をださせる」「何かを好きになってもらう」という場合に、「ご褒美」を用意してしまうと、その約束のせいでやる気を失ってしまうのです。
遊びが仕事に変わる
「遊びが仕事に変わる」この言葉が一番納得できる形なのではないでしょうか。
ただ楽しくてやっていた。好きでやめられなかった。そんな自分の生きがいを職業にした時、まったく楽しくなってしまう。なんてエピソードは割と聞くでしょうし、イメージも湧くでしょう。
あれだけ趣味でやっていたのにも関わらず、仕事にしてからは「お金」がでないと一切やる気に繋がらないです。
「報酬」を目的にしてしまっては、その行為自体にやる気を見出せなくなるのは当然と言ってもいいでしょう。
「モノで釣る」という行為はとても簡単なことですが、それを使う場面はよく考えるべきです。もし、それが「その人に必要な行為」で部下や子供に使う場合は大きなデメリットになる可能性があります。
「勉強」を「ご褒美」でやる気をださせるのは楽です。給料を上げて部下にやる気を出させるのも即効性があるでしょう。
しかし、それをすると子供は自主的に勉強するメリットを見出せなくなるし、部下はそれが当たり前になります。
勉強には「結果」というご褒美を、仕事には報酬と共に「責任」を、報酬もご褒美も使いどころと使い方を見誤らないようにする必要があるのです。
報酬が励みになるか
上記でも軽く触れていますが、「勉強」「仕事」といった、楽しくないことや嫌なことをさせる場合になら、やはり報酬が励みになるのでは?と思う方が多いでしょう。
この問題に対しても実験を行った方がいました。内容としては、また二つのグループに分けて公園で「ゴミ拾い」をしてもらう、という実験です。
ゴミ拾いが娯楽、という方はかなり少ないでしょう。報酬があるか無いかでやる気にかなり影響がでると考えられます。
二つのグループに公園のゴミ拾いをしてもらう。
片方のグループには報酬にかなりの金額を約束し、もう片方のグループには少額の報酬を約束します。
後に自分がどれくらい作業を楽しんだか10満点で採点してもらう。
これならどう考えても多くの報酬をもらったグループの方が楽しんで作業をすることができたと思えるでしょう。
・報酬が低いグループの点数 【平均8.5点】
しかし、上記のことからわかるように実際の結果は全くの逆で、礼金の少ないグループの方が楽しんで作業をすることができた。という結果になりました。
さらに、報酬が高い方の点数が低いというだけでなく、かなりの大差を付けて報酬が低い方の楽しんでいるという驚きの結果です。
これも上記の項目で解説した実験の被験者と同じように、「報酬が高い」ということから心境に変化が現れています。
本来「報酬の高い仕事」というのは、「大変な仕事」「高い対価のモノ」という認識です。その意識が働くことにより、この作業は「とても嫌な仕事なんだ」という認識が強くなったのです。
逆に、報酬の低い方は「報酬が低くても満足できる仕事」「報酬がなくても価値のある仕事」という認識になっており、楽しい仕事だと思い作業をすることができたのです。
この実験から「多すぎる報酬はマイナスになることもある」ということがわかったのです。
どっちもやっていることは一緒なんですけどね(笑)人間の心理というのは本当にややこしいです。
心理的に良い報酬の出しかた
上記のような実験は多く行われておりますが、報酬やご褒美を提示された人たちは、報酬やご褒美を提示されていない人よりも良い成果をあげられないことが殆どです。
報酬やご褒美は短期的な励みにはなるのかもしれませんが、長い目で見ると意欲をそこなってしまう傾向が強く、デメリットになってしまうことが多いのです。
そうなると問題になってくるのは、「どうやってやる気を継続させるのか」という点です。
頑張った人に対して何もないのは違いますよね。しかし、だからと言って安易に報酬を渡してしまうと次の頑張りに影響が出る可能性があります。
そうならない為の対策としては、「褒める」「ちょっとした報酬」などが良いとされています。
特に、「その人が好きで頑張っていること」に対しては、報酬よりも褒めてあげたりすることがよいでしょう。内容を細かく褒めたり、頑張ったことをピックアップして、その頑張りを認めてあげるといいです。
そうすれば「見てくれている」「頑張りが認められている」という感情がでます。ここが重要です。人間って脳内の快楽物質に支配されていますので、承認欲求や自己肯定感が満たされることは、どんなモノよりも報酬になります。
特に「もっと褒められたい」「もっと凄くなりたい」は子供の成長にとても大きく影響します。おもちゃを買ってあげるより遥かに強大なエネルギーを生むでしょう。
これは大人も例外ではありません。何だったら子供の頃より大きな効果が出る人だっているでしょう(笑)
とりあえずは「やる気のコントロール」というのはとても難しい。ということを理解しておくが大事です。自分のやる気でさえコントロールするのって難しいですよね。
それを踏まえたうえで、先を見据えて「報酬」を考えるようにしましょう。私の個人的ないろいろと都合のいい報酬は「ケーキ」とかです(笑)
ちょっとしたことですがとても気分が良くなりますし、ケーキが目的になることも少ないでしょう(笑)あなたが思う丁度良い「ご褒美」を考えてみてください。
仕事や教育に「ご褒美」を使ってはいけない理由、報酬が人のやる気を奪う仕組み